初心者のための機械の安全使用
整備用工具編

 今号は機械を整備する工具のうち主に手工具と携帯用電動工具の安全な使用方法について述べさせていただきます。
 工具を安全に使うための最も重要な基本事項は、@使用目的以外の事に使用しない、A大きさのあった工具を使用するということです。
 例えば、モンキーレンチやパイプレンチ、スパナなどをハンマーの代用として使うと言ったような事がしばしば見受けられます。このような使い方をすると工具そのものが破損し本来の使い方ができなくなるだけでなく、ハンマーなら対象物に的確に打撃を与えることができても、代用工具では対象物から滑ってしまい、作業者の身体を叩いて怪我をするなどの傷害が発生してしまいます。
 

1.ドライバー(ネジ回し)
 ドライバーはネジに押しつける力を7割、回す力は3割と言われています。あまり力を入れすぎて手がドライバーの柄から滑ってしまい、機械に手を突っ込んで怪我をすることがよくあります。
 機械を整備しているドライバーは、柄に油が付着したりしていますので使用する前にウエスで油を完全にふき取ってから使用しましょう。
 ネジが固かったり、錆び付いて回り難くなっている場合はハンマーで柄の頭を叩き、ネジに衝撃を与えると緩みやすくなります。貫通ドライバーは柄の頭を叩けるように軸を柄の頭にまで長くしてあります。
 インパクトドライバーは柄をハンマーで叩くとネジに衝撃が加わると共に回転力も加わるようになっています。
 貫通ドライバーもインパクトドライバーもハンマーを使って柄の頭に打撃を加えますので、頭の中心をヒットしないと滑って柄を握っている手を叩くことになります。
 ドライバーは簡単な工具ですが、手を滑らすことが多く手指の切傷や骨折等思いのほか多く発生しています。
 ドライバーは大きさがそれぞれ数種類づつあります。ネジの頭とドライバー先端の大きさが適合していないと、「すべり」や「はずれ」がおこり思わぬ怪我をすることがあります。

プラスドライバー


マイナスドライバー


六角棒ドライバー


貫通ドライバー


インパクトドライバー


ナットドライバー

ドライバの悪い使い方

2.レンチ類
 レンチ類は原則的には手前に引くように回します。
 しかしながら、場所によっては手前に引けない場合もあり、絶対ではありません。
 工作物に対して回転角が鈍角の場合は手前に引き、鋭角になったら手のひらで押すようにして使うのが安全な使い方です。

手前に引くと安全

 レンチには多くの種類がありますが、農業機械の整備に使用する種類は以下のものがよく使用されます。
スパナ メガネレンチ ソケットレンチ モンキーレンチ パイプレンチ
 
 特にネジを緩める場合はレンチを握って押すと急にレンチが動きだし、握っている指や手の甲を機械にぶつけて負傷してしまいます。
 手前に引く場合は急激にレンチが回転しても比較的容易に力をセーブすることが可能です。

 スパナの2丁がけでの使用もつなぎ目が外れてひき手を負傷することが多くありますので、絶対に避けなければなりません。

その他、レンチの柄にパイプを差し込んで回転力を大きくしたり、ハンマーで叩いて衝撃を与えたり、ボルト・ナットに対して、スパナを斜めにかけて使用することは、工具の破損だけでなく事故につながりやすい使用法です。

 モンキーレンチ、パイプレンチは回す方向が一方向にしか効きません。回転方向を間違えると滑ってしまい、ネジやパイプから外れますので注意が必要です

*トッピクス*
 スパナでは柄をハンマーで叩かないと説明しましたが、特殊なスパナである打撃スパナはハンマーで叩いてネジを緩めたりします。
 ボルト・ナットが大きくなると、人力では締め付け力が不足します。打撃スパナは、柄尻の穴にロープを通し、引っ張りながら柄尻の叩き部をハンマーで叩くようになっていて、叩いて増締めしたり、錆び付いたナットを緩めたりする時に使います。
 メガネレンチにも打撃メガネレンチがあります。

打撃スパナ

打撃メガネレンチ

3.プライヤ
 物を挟む際、口の開きを大きくしてしっかりとつかむ事が必要です。また、なるべく柄の端の方を握るようにすると、力が入ります。柄の元の方を握って作業すると、力が入らないばかりでなく、指を挟み怪我をすることがあります。

プライヤの正しい使い方
口の開きを大きくしてしっかりつかむ 小さいパイプをつかむ場合の支点の位置 太いパイプをつかむ場合の支点の位置

プライヤの種類 (下のプライヤの絵をクリックしてください)
 プライヤはつかむ対象物や用途により多様な種類があります。

4.ハンマー
 打撃面の中心で、対象物を叩きます。打撃面の中心部以外を使用すると、打撃面の欠けや木柄の折れの原因となり危険です。長期間の使用により、カエリ・まくれができた場合は、グラインダーで補修しましょう。

ハンマーの種類
片手ハンマー 木ハンマー ゴムハンマー 銅ハンマー プラスチックハンマー
 木ハンマー等は対象物を傷つけないために使用します。

5.電動工具安全使用の共通事項
 電動工具はモーターにより高速回転や往復振動を行いますので、一瞬のミスが重大な事故につながります。手工具であれば打撲や切傷程度で済むものが、骨折や切断にまで至ります。刈払機やチェーンソー・トリマーと同様取扱説明書を熟読し正しい操作方法を身につけて作業しましょう
(1)ビットやブレードは高速で回転するので作業中にゆるむと事故につながります。定められた固定方法でしっかりと固定しましょう。
モーターの回転による振動やトルク(回転力)の変動があるので作業中は両手でしっかり押さえ、作業の始めと終わりは、ゆっくりと慎重に作業しましょう。

(2)コードは十分な長さのあるものを使い、作業中はからまないように十分注意し、使用中コードが引っ掛かったりすると危険なので肩にかけるなど、じゃまにならないようにします

(3)ビットを交換する時電源コードが接続していると、何かのはずみでスイッチが入った場合非常に危険です。必ず電源を切りコンセントを抜いてからビットやブレード等の交換を行いましょう。

(4)電動工具の力は想像以上に強力です。特に小さな加工物を片手で押さえると危険です。加工物は手で押さえないで万力やクランプなどでしっかり固定して作業をしましょう。

(5)身軽な服装で作業をするようにしましょう。
 ネクタイ、袖口のあいた服は回転部に巻き込まれやすく危険です。切り屑も飛び散ることがありますので「保護めがね」を着用します。
 手袋は回転しているドリルビットに巻き込まれる危険があるため着用してはいけません。ドリル作業は素手が原則です。
 素手で間違って負傷した場合は、何針か縫う程度で済みますが、同じ状況で軍手をはめていたら、関節単位か指が無くなる程度にまで大きな怪我となります。
 軍手は編物で伸びますので、回転ドリルビットに引っ掛けた場合に切れずに巻き込まれるからです。電動ドリルだけでなく、高速回転する工具を使用する場合には手袋を着用してはいけません。 

*トッピクス*
 電動工具には銘板が必ず取り付けられています。
 銘板に書かれた電圧や電流で使用します。
マークは二重絶縁構造承認マークでアースの必要が無い電気器具に表示されています。


6.電動工具の種類と安全使用方法


  電動ドリル類
電気ドリル


インパクトドライバー


最近は「インパクトドライバ」と称して充電式の電動ドリルが軽整備では用いられることが多くなってきました。
(1)必ず銘板に表示してある電源で使用しましよう
 表示を超える電圧で使用するとモーターの回転数が異常に高速になり,機体が破壊する恐れがあります。
(2)スイッチが切れていることを確かめましょう
 スイッチが入っているのを知らずにさし込みプラグを電源にさし込むと,不意に起動し,思わぬ事故のもとになります。スイッチはスイッチ引金を引くと入り,離すと切れます。
 スイッチの引金を引き,離したとき引金が戻ることを必ず確認しましょう。
(3)電源コンセントの点検を行いましょう
 さし込みプラグをさし込んだとき,ガタガタだったり,すぐ抜けるようなら修理が必要です。そのまま使うと過熱して事故の原因になります

*トッピクス*
 電動工具の業界ではインパクトドライバはドリルビットの回転運動に加え回転軸の往復運動もできるものを言い、コンクリート等の穴あけには、往復振動をさせながら回転を行う事でスムーズな穴あけが可能です。
 トドリルドライバーはドリルビットの回転運動だけのものを言います。両者とも正転、逆転が可能で、回転スピードも多段階に変えれるものが一般的です。

  グラインダー類
ディスクサンダー ベンチグラインダー
(1)使用電源を確かめましょう
 必ず銘板に表示してある電源で使用します。表示を超える電圧で使用するとモーターの回転数が異常に高速になり,トイシや機体が破壊する恐れがあります。また,直流電源で使用しないこと。工具の損傷だけでなく,事故の原因になります。
(2)スイッチが切れていることを確かめましょう

 スイッチが入っているのを知らずにさし込みプラグを電源にさし込むと不意に起動し,思わぬ事故のもとになります。スイッチはスライドツマミを押してON(入)の位置にすると入り,スライドツマミの後部を押すと自動的にOFF(切)の位置に戻り,切れます。スライドツマミがOFF(切)側にあることを必ず確認しましょう。
3)ホイルガードの確認を確認しましょう
 ホイルガードはトイシが破壊した場合の保護のためのものですから,必ず付けて使用しましょう。
 ホイルガードは,小ネジ(2本)を少しゆるめることにより任意の角度に動かすことができます。作業に適した角度にセットしてご使用しましょう。
(4)ロックピンの確認を行いましょう
 ロックピンを押して,離したとき確実に戻ることを確認してくだ さい。
(5)トイシの確認および取付けを確実に行いましょう
 トイシは正規のものか,またヒビや割れがないか十分調べましょう。
 トイ シは正規の状態に取付けられ,十分締付けられているか点検することが重要です。もしひび割れや欠損があったまま使用するとトイシが破損し、破損片が飛散して非常に危険です。
ディスクサンダーはディスクの外周部で研磨するため、サンダーを前に傾け(加工面との角度は15度〜30度)外周の1/4のところを使用します。
ベンチグラインダーはトイシの外周を使用し側面は絶対に使用しないこと。側面に加工物を押し付けるとトイシが破損し、非常に危険です。
トイシとワークレストの間隔を3mm以内に調整しておきます。間隔が広すぎると加工物がトイシとの間に挟まりトイシの破損の原因となります。

(6)電源コンセントの点検を行いましょう
(7)試運転を行ないましょう
 本機のスイッチを入れるときは,本機の回転部分が加工材などに接触して いないことを確認することが重要です。接触していることを知らずにスイッチを 入れると,トイシが破壊することがあり,けがの原因になります。
 新しいトイシを取付けてはじめてスイッチを入れるときは,トイシの露出 部から必ず一時身体を避けてください。 トイシにヒビ・割れがあるのを気づかずに作業しますと非常に危険です。
 作業前には人のいない方向にトイシを向け,必ず試運転を行なって異常がないことを確認しましょう。
  コーヒーブレーク
 筆者の勤務先では農業機械はあまり多くありません。
 このため、修理するのは刈払い機と芝刈り機ぐらいで修理と言うより点検清掃でほとんど1年間無事に作業を完了することができました。
 唯一業者を呼んだ修理はエアクリーナーのフィルター交換とリコイルスターターロープの取替えでした。これもパーツを頼んだら持ってきてくれたので、折角だから取り替えておいてと頼んで修理してもらったものです。
 この業者はパパママ農機具店で名前は○○農機と称していますが、農機の仕事は半分以下で空調機やボイラーの設置や補修がメインとの事。「農機では食って生けませよ!!」と言われて寂しいかぎりです。
 こんなわけで、工具箱にはドライバとプラグレンチが入っているぐらいで、スパナはありません。

整備用工具編 完