初心者のための機械の安全使用

連載第4回 小型防除機編
 今号は小型の防除機の安全使用について述べさせていただきます。
 ご存知のように防除機には、液剤を撒くのか、粉剤、粉粒剤、粒剤を撒くのかによって機械の構造は大きく変わってきますが、安全な防除作業という点では共通するところが多くあります。
 機械を安全に使うための知識は勿論のこと、農薬被爆に対する安全作業が防除機を使用する際には重要となってきます。
 農薬の安全な取扱については与えられた命題からは外れますので、別の機会に譲りたく思います。。

1.農薬被爆への防止
 
(1)服装を整えましょう
・農薬を吸い込まないために、性能の良い農薬用マスクを装着しましょう。
・皮膚の露出を防ぐために、帽子、保護メガネ、保護手袋、不浸透性防除衣、ゴム長靴をつけましょう。
農薬散布による有害成分の人体への進入経路としては、
@皮膚から吸収される
A口から入る、
B鼻から吸い込まれる
の三つが主な進入経路です。
なかでも鼻や口の場合は、農薬が直接人体内に吸収されるため、その毒性は強く作用します。例えば、皮膚からの吸収を1とすると、呼吸により吸い込む農薬は30倍もの高率になります。
マスクの着用は安全作業の面で絶対遵守しなければなりません。手ぬぐいは効果がありません。

** トピックス **

農薬用マスクの種類

 作業用のマスクは労働安全衛生法、同施行令によって「防じんマスク」や「防毒マスク」等の規格が定められています。
 農薬用マスクは、粉剤用、液剤(ミスト)用、ガス用の三つに分類され、散布する農薬により、それに適したマスクの選択が必要となります。
粉剤用マスク
粉剤(粉剤、粉剤DL、FD剤)、粉粒剤(微粒剤)、粒剤などの散布作業時に用いるもので、農薬を粒子の形でマスクのろ過材が捕集します。
液剤(ミスト)用マスク
乳剤、水和剤(水和剤、ゾル剤、フロアブル剤)、水溶剤、液剤、油剤などの液剤散布の作業時に用いるもので、多くは粉剤用マスクと共用できますが、DDVPのように揮発性の薬剤は例外です。揮発性の高い農薬(DDVP乳剤など)を使用するときは、ガス用マスクを着用するようにしましょう。
ガス用マスク
土壌くん蒸の臭化メチル、クロルピクリン、D-Dを使用する場合の防毒マスクは、吸収缶内の吸収材(活性炭)がガスを吸着して捕集します。


農薬散布作業では事前準備を怠り無く
おしぼり、うがい用水筒、ちりがみ、タオル、予備のマスクと手袋をまとめて準備しておきましょう。
農薬が身体に付着したらすぐにふき取ることが大切です。

2.散布作業環境を守りましょう(農薬の飛散を防ぎ被爆や大気汚染を防ぎましょう)
(1)無風または風の弱いときに散布しましょう。
・京都議定書が発効され、環境問題がクローズアップされてきています。CO2による地球温暖化や大気汚染が国民一般の関心事となり、農薬散布もドリフト(飛散)が周辺環境を悪化させるとして白い目で見られています。空散からラジヘリ防除への転換が急激に進んだのも環境問題に端を発しています。
 風による農薬の飛散を防止するために、風の無いときに散布することが大切です。
 夕方の上昇気流が発生しない風の無い日に、周辺の家屋や作物、樹木の状況を考慮しながら散布する方向等も考慮して必要最小限の散布作業を実施しましょう。

(2)農作物の近くから散布しましょう。
・防除機械の性能が良いからと言って、遠くから作物に向かって農薬を散布すると、薬が作物に到達するまでの間に飛散する可能性が高くなります。風向きによっては作業者が農薬被爆する事になり危険です。

(3)散布圧力を上げすぎないようにしましょう。
・動力噴霧器ではノズルにより適正な噴霧圧力が設定されています。余裕があるから、能率が高くなるのではないかと勘違いし、設定圧力を高くすると、薬が勢いよく飛び出し思わぬ方向に薬剤が飛び出します。

散布は作物の高さに合わせて噴頭の位置を調節します

(4)体調が悪い場合は作業を控えましょう
 病気・過労・体調の悪い時や妊娠中の場合、また、お酒や身体に影響を及ぼす薬を飲んだ時には作業を行わないこと。
 体力が落ちているときにはちょっとしたことでも、体調不良を激化させてしまいます。
農薬散布後に体調に異常を感じたら、すぐに病院で手当てを受けましょう
農薬中毒はすぐに症状が出るものとしばらく経ってから出るものがあります。おかしいと思ったら、医者の適切な治療を受けることが重要です。

農作業安全のための指針
平成14年3月農林水産省通知
によると
次のアからキまでに掲げる者は、機械作業、高所作業等危険を伴う作業に従事しない又はさせないこと。また、それ以外の作業にあっても、必要に応じて作業の内容を制限することとしています。
ア 飲酒し、酒気を帯びている者
イ 薬剤を服用し、作業に支障がある者
ウ 病気、負傷、過労等により、正常な作業が困難な者
エ 妊娠中及び産後一年を経過していない女性(特に、当該作業により、妊娠又は出産に係る機能障害等健康状態に悪影響を及ぼすと考えられる者。)
オ 年少者
カ 作業の未熟練者(熟練作業者の指導の下で行う場合を除く。)
キ 機械操作や化学物質等を取り扱う作業において、必要な資格を有していない者



農薬は登録どおりの時期に適正に散布しなければ農薬取締法違反となります。

・圃場の端では特に気をつけて散布しましょう。収穫間近の作物が隣接している場合は最大の注意を払いましょう。

・近隣の農家と良く話し合い、散布時期等を決めましょう。

・防除基準を守るとともに、適期・適量防除に努め、無駄な散布が無いようにしましょう。

・農薬散布の際、近隣の農作物に農薬が〔ドリフト〕した場合、近隣の農作物に適用されていない農薬の付着や農薬残留物の問題が生じることがありますので注意しましょう!(その他、農薬飛散は、水路、河川等への環境汚染や居住地への飛散等もあります。

・少量散布用の農薬は、散布濃度が高いので、特に注意しましょう。

・水田では、農薬が流出しないように水じり(排水口)を閉めておきましょう。


3.ハウス内での防除作業は短時間に済ませましょう
 最近はハウス内での無人防除機の導入が増加しつつありますが、小規模ハウスでは背負い式等の防除機による薬剤散布が主流です。
 密閉されたハウス内での防除作業は、農薬被爆だけでなく排気ガス中毒に注意しできるだけ短時間で散布することが重要です。
 既散布場所を何度も通行することなく、事前に段取りを整えてスムーズな作業実施に心がけましょう。

4.防除機械の一般的な安全使用

(1)取扱説明書を読みましょう
 使用前に、取扱説明書をよく読んで、機械の操作方法、点検の実施方法、薬剤散布方法、薬剤の取り扱い方などを十分に理解してから運転操作を行うことが重要です。

(2)機械の始業点検を行いましょう
 エンジンを始動する前に、燃料や潤滑油、ベルトの張りや損傷の有無、手で回して異音や引っ掛かりがないかなどを点検します。
 安全装置や防護カバー等の安全装備は正しく取り付けられているか点検を行います。

(3)作業は適宜休憩をとりましょう
 連続作業はせずに、休憩をはさみ、作業中の喫煙・飲食は避けましょう。

(4)背負い式の動力散粉機では背中でエンジンの高周波音が耳に響きます。耳栓などを使用して鼓膜への刺激を減少させましょう。

(5)作業後の清掃
・農薬は使いきり、確実に処理しましょう。
・防除機械はコンプレッサーによる空気清掃や水による洗浄を行い、薬剤が付着していない状態にします。動力噴霧器は必ず水を通して機械内部の農薬を排出すると共に、洗浄した水も完全に排出しましょう。

5.散布作業後の対応処置
(1)終業点検・格納点検を実施し、損傷箇所は修理を行いましょう。

(2)作業服やマスク、メガネ等の保護具を清掃します。農薬で汚れた作業衣は、他の衣類と区別して、単独で洗うようにしましょう。

(3)身体をきれいに洗い、うがいを行い、当日は飲酒をひかえて早く就寝することが、翌日の作業のために最も重要なことです。


コーヒーブレーク
 筆者が勤務する公園ではこの1年間農薬を散布したことがありません。先輩に聞いても最近は年に1度撒くか撒かないかとの事。
 備品台帳では動噴が載っているのですがどこにあるか解りません。元財閥の別荘地を公園にしているため当時の蔵が2箇所あり、そこにでも置いてあるのでしょうか?
 機械倉庫には段ボール箱に入ったままの人力噴霧器が置いてありますがこれも使えるかどうか?
 そんなわけで、年に一度農薬保管状況と使用記録簿の提出が本部から求められますが、農薬などどこにも置いていません。
 ツバキやサザンカにはチャドクガが発生しますし、芝生はクローバーに覆われて見る影もありませんが公園内では農薬散布は禁句のようです。絶対に散布してはいけないということではありませんが、来園者からの非難と苦情を覚悟しなければなりません。
 農薬を撒ければどんなに効率的で便利かと思うと、歯がゆい限りです。

小型防除機編 完