初心者のための機械の安全使用
チェーンソー編
 今号はチェーンソーの安全使用について述べさせていただきます。
 チェーンソーはソーチェーン(刃)が高速で回転するため、多くの点で刈払機の安全作業と共通する部分がありますので前号の刈払機編をも参考にしていただきたく思います。。
 農業の分野では伐木作業そのものは多い作業ではありません。チェーンソーを使う作業はシイタケ栽培のホダ木づくりや、倒木の切断処理など樹を切り倒すことより切断作業(玉切り)が中心となると思われます。
 伐採作業は林業の分野での作業となるので、ここでは伐採後の枝払いと玉切りについての安全作業を中心に述べさせていただきます。

1.初めての機械は取扱説明書をよく読みましょう。

  刈払機と同じです。(前号参照)

2.作業に合った服装をしましょう。

 袖じまり、裾じまりの良い作業服と保護めがね、防振手袋、安全靴、すね当て等の保護具も着用しましょう。
 スウェーデン林野庁の統計ではチェンソーの怪我でもっとも多いのは、脚部前面の切断事故となっています。最近の作業ズボンやすね当てにはソーチェーンが少し触れても切創しないようなものも販売されています。
すね当てに使われている繊維の一例

チェンソー防護衣は、生地の中にポリエステル製の綿が入っており、チェーンソーの刃が当たると0.2―0.3秒の早さで綿が飛び出てチェーンソーの回転部分に絡み、刃の動きを止める仕組みになっています。

3.機械の作業前点検および整備を行います。
(1)ソーチェーンの目立てをチェックします。切れ味が劣化するとチェーンソー自体に負担をかけ、故障の原因となるとともに、作業能率の低下、体力の消耗から来る不適正な操作による事故の誘発が予想されます。切れ味を保つとともに、ソーチェーンの張りを適正に保ちます。
**ソーチェーンの張り**
 ガイドバーの下部にぴったり密着し、なおかつ手で回せる程度に張っておく。作業中はチェーンが熱で伸びてたるみが出てくるが、バーの下部の溝からチェーンの爪(ドライブリンク)が外れない程度に張っておかないと、チェーンが飛び出す危険がある。

(2)安全装置が正しく作動するかどうか確認します。
ア.前ハンドガード(ブレーキレバー)を前方に押し、チェンブレーキの作動位置でソーチェーンの回転が停止するかどうか確認します。
イ.
スロットルコントロール・ロックアウトを握らないとスロットルレバーが高速にならないことを確認します。

(3)各部のネジ類のゆるみが無いか点検します。チェーンソーは正常に作動していても振動の激しい機械です。ネジの緩みは破損や事故の元になりますので必ずチェックしましょう。

(4)燃料およびチェーンオイルが入っていることを確認します。
 チェ−ンソーは切断中の木との摩擦を減少するためにオイルを刃に吹きつけながら回転するため、刃先を板や白い紙などに向けて、軽くチェーンを回転させ、刃先からオイルが飛んでいるかどうか確認することが必要です。

4.チェーンソーの持ち運び

 
チェーンソーを運ぶときは刃に必ずカバーをつけます。
 
刃に接触することによる怪我を防ぐばかりでなく、刃の保護のためにも必要です
**傷害事故の発生**
平成15年4月にでカバーをかけなかったための事故が発生しています。
空回りしているチェーンソーを持った加害者が移動しようとした時、被害者が気づかず振り返り、被害者の上唇付近にチェーンソーが接触、裂傷となった。

5.安全な姿勢で始動させます。

 チェーンソーを地面に安定させ、ソーチェーンが地面その他の障害物に触れていないことを確認した後右足で後ハンドルを押さえ左手で前ハンドルを握りながらスターターロープを引っ張ります。
「落としがけ」はひざの周辺を傷つける恐れがありますので絶対に避けてください。

6.キックバックに注意しましょう。

 回転中のソーチェーンが木材や障害物に当たってガイドバーが跳ね上げられる現象を「キックバック」といいます。
 キックバックによる災害を防止するために次のことに心がけましょう。

 ガイドバー先端部上側だけを使って切断作業を行わないこと。
 また、ガイドバーの先端が鋸断中の材の陰にある小丸太などに触れないようにすること。

(1)ガイドバー先端部分上側の円周部分がキックバックを起こしやすい箇所です。
 ガイドバーの先端の円周部分を走行するデプスゲージの部分が材に激しく当たりその反動でチェーンソーが上方へ跳ね上げられるのです。
 このため、突っ込み切りの場合、バーの先端部分下側でまず切口を作ります。

7.枝払いはガイドバーの根元部分を使って切断しましょう。
(1)枝払い作業は、材の安定を確認のうえ、足場を確保してから作業を行いましょう。特に傾斜地での作業は材の転がりによる事故が予想されます。また、材の上に乗っての作業は転倒、転落の恐れがあるので行わないようにします。
**死亡事故の発生**
平成15年3月に高知県で枝払い中の死亡事故が発生しています。
勾配約20度の箇所で集材した杉をチェーンソーを用いて枝払いを行っていたところ、チェーンソーの刃が頚部に接触した。

(2)伐採現場での枝払いは、原則として山側に作業者が位置して行い、元口(根側)から材の先端に向かって作業を進めます。


(3)枝払いは、できるだけガイドバーの根元部分を使って切断します。先端部分はキックバックを起こしやすいので根元部分を使います。

(4)傾斜地での枝払い作業では地面に接して伐倒木を支えている枝(支え枝)は
くい止めなどを行い、安定を確保してから切断します。

(5)長い枝は、2度に分けて切るなど、枝の跳ね返りに注意しましょう。

(6)同時に2人以上で同一の材の枝払いをしないこと。

8.安全な玉切り作業に心がけましょう。
(1)玉切りは、無理な作業姿勢で行うと、疲れるばかりでなく、玉切った材が転がるなどして危険です。
 また、やがらの上での玉切りは非常に危険です。

(2)玉切り作業を行うときは必ず斜面上部で行い、斜面下部での作業および足を材の下に入れないこと。

(3)同時に2人以上で同一の材の玉切りをしないこと。

やがら(乱積)*
 材木が寄り重なり不規則に積みあがっている状態

9.異常を感じたらまずエンジンを止めましょう。

 伐木に刃が喰いついた、機械の振動が激しくなった、などの機械の異常や身体が滑りそうになったなど正常な作業ができなくなったときにはまずエンジンを止めて安全を確保します。 
 刃が挟まれてしまったらエンジンを切ってから引き抜くようにしましょう。
 エンジンをかけたまま引っ張って、外れた途端にソーチェーンが回転しだして「ゾッ」とした経験があります。
 特に、どうしても外れないときには2人がかりで引っぱたり、エンジン回転をあげながらこじったりしたくなりますが、危険ですので絶対にしてはならないことです。
 伐木作業では刃が挟まれることはたびたび発生します。挟まれないようくさびを打ち込み切断していくことが重要です。
 玉切りの場合でも切断の方法が不適切ですと挟まれますので、木の下側に切れ目を入れるなど、挟まれを防止する処置を施しましょう。

トピックス

作業時間

 チェーンソーは振動傷害の恐れがあるため、連続作業は危険です。チェーンソー取扱業務に係る健康管理の推進(昭和50年10月20日基発第610号)の労働省通達により以下のことが定められました。
チェーンソーを使わない他の作業と計画的に組み合わせチェーンソー操作時間は1日の2時間以下とすること。
チェーンソー連続操作時間は長くとも10分以内とする。

振動傷害

 振動障害は、チェーンソーなど振動する工具の使用により、手指等の抹消循環障害、末梢神経障害や運動機能障害を総称しています。
 振動障害は、機械器具等から発生する振動を主要因として、これに作業時間などの作業要因、寒冷などの環境要因、日常生活などの要因が複雑に作用して発症するといわれています。
 林業における振動障害として問題にされてきたのがレイノー現象(蒼白現象)です。この現象は、振動へのばく露が続き、寒さを感じるときに現れやすいとされ、手指や腕にしびれ、冷え、こわばりなどの症状が、間けつ的、又は持続的に現れてきます。
 国際労働機関(ILO)(1980年)では、振動障害「振動による疾病(筋肉、腱、骨、関節あるいは抹消血管、末梢神経の障害)」と定義しており、国際労働衛生協会(ICOH)のロンドン会議(1983年3月)では、振動障害は、「すべての症状が抹消性であり、循環障害(局所的な指の蒼白化、白指を伴う血管攣縮)、感覚・運動神経障害(しびれ、手指の微細運動障害など)、それに筋・骨格系の障害(筋、骨、関節疾患)」ということで合意されています。

チェーソー編 完