初心者のための刈払機の安全使用

 農業機械による農作業中の死亡事故や傷害事故は相変わらず高水準なまま推移しています。農作業中の死亡事故は一般的な労働災害による死亡事故の2.5倍の発生率となっています。また、死亡に至らないまでも傷害を伴った事故発生率も他産業の事故と比較して極端に大きくなっています。
 日本農業の特徴は農業従事者に高齢者が多いこともあり、とっさの回避行動が遅れるなどが原因にもなっていると思われます。
 筆者は現在某公園での管理作業に従事していますが、そこの作業員はほとんどがサラリーマン出身者で、刈払機など使った経験の無い人が多くそのような人たちが我流で草刈を行っているのを見て、目をつぶりたくなるような場面に遭遇することが何度かありました。
 初心者は事故の結果がどのようなものかの認識が薄く同じようなことを何度も繰り返してしまっています。
 読者の方々は農作業のベテランばかりですので今更の感が強いでしょうが、刈払機の安全作業について、公園の管理作業員向けに資料を作成しましたのでご報告します。

1.初めての機械は取扱説明書をよく読みましょう
 事故の大半は間違った使い方や、不注意、見込み操により発生しています。取扱説明書には正しい操作方法がきめ細かく記載されていますので、特に危険マークの項目は熟読することが重要です。警告マークや注意マークの項目も注意伊深く読み理解しなくてはなりません。

(参考)マークとその意味

マーク 危険ランク
指示を守らないと死亡または重傷を負うに至る切迫した危険性を示します。
指示を守らないと死亡または重傷を負う可能性がある危険性を示します。
指示を守らないと軽傷または中程度の傷害を負う可能性がある状況を示します。
また物的損害の発生のみが予測される場合も使用します。

 取扱説明書には安全作業だけでなく点検やメンテナンスなど重要事項が目白押しですのでいつでも見れるよう機械のそばに保管し、失くさないようにしましょう。

2.作業に合った服装をしましょう。
 高速回転する刈刃は非常に危険です。刃に直接触れて切傷する他、飛び石や破損刃のかけらが当たり怪我をするケースが多く見受けられます。怪我を防止するためには適切な服装で作業することも非常に重要なことです

保護メガネとフェイスシールド

農業機械傷害事故調査結果(平成13年)より
 刈払機は刃による切傷と小石等が回転刃により飛ばされて身体に当り負傷する例が圧倒的に多くなっています。
 安全靴やすね当ては回転刃が触れたときの切傷を防ぎ、防護メガネやフェイスシールドは飛散物から顔を守ります。ナイロンコード使用時には特に飛散物が多くなりますのでフェイスシールドは必需品です。


3.機械の作業前点検および整備を行います。

 異常な状態のままで使用すると、刃が割れたり、欠けたりしたものが周囲に飛び散り作業者や周囲の人に当たる可能性があります。刃の破片が目に刺さり失明する事故も報告されています。
 飛散防護カバーが装備されているかも重要です。カバーがあるため刈草が巻きつきやすいとの理由で外したままで使うなどは論外です。
 点検は燃料の有無の他各部のねじ類のゆるみが無いかもチェックします。
 作業前点検の最後は緊急離脱装置が正しく作動するかどうか、エンジンを始動しない状態で確認を行います。

4.刈払い作業の前に作業現場の環境を整備します。

(1)木の枝、空き缶、石など刈刃に当たって飛び跳ねるものを取り除きます。
(2)刈刃に巻き付きそうな、テープ、針金等も取り除きます。測量杭等除去できないものへ目印を付け、作業中当たってしまわないようにします。

5.複数で作業する場合は安全距離を確保します。

(1)刈払い作業中の作業者には近づかない。どうしても近づくときは15m以上離れた場所で作業者の視界に入る位置で合図を行い、作業者がエンジンを止め刈刃の回転が止まったことを確認してから近づきます。
 後方から近づいて肩をたたいて知らせると、作業者が振り向いて脚を切られるおそれがあります。後方からしか接近できないときは、長い棒のようなもので作業者に接近を知らせます。
(2)刈払い作業中は作業者から5メートル以内が危険区域です。安全作業上は15メートル以上離れて作業するのが望ましい状態です。
6.傾斜地では足場の確認を十分に行います。
(1)傾斜地は、足元が滑りやすく、崩れることもあります。傾斜地で転倒し、刈刃に触れてケガをする事故が多発しています。一歩ずつ足場を確認しながら作業しましょう。
(2)高低差のあるけい畔、水路、堤防等の法面は、傾斜地が多く特に注意が必要です。

***急傾斜地での刈払い作業方法***
 急傾斜地を下方に向かって刈り進むと、足を滑らせ転倒し、刈刃で身体を損傷する恐れがあり大変危険です。急傾斜地で下方に向かうと身体が不安定になり、転倒しやすくなるとともに刈刃が足に近くなります。急傾斜地で刈り払い作業が不安な場合は鎌で危険場所を事前に刈り取っておきましょう。

7.刈払機は木に当てないように動かしましょう。
(1)刈刃を岩、石、切株等障害物に接触させると作業者側に跳ね返される恐れがあります。刈刃を木へ押し当てたり、地面に喰い込ませないように注意します。
(2)刈刃を膝より高く持ち上げて使用すると飛散物が顔面に飛んでくることがあります。膝より低くして使用します

8.刈刃の切断位置は前方左側1/3の位置を使いましょう。
(1)草類を刈り取る場合は刃のいずれの部分でも刈取れますが、左回転の刃の場合は図のように前方左側1/3の部分を使用します。
 一般的な刈払機は、刈刃が反時計回りに回転します。そのため右側で刈ると作業者側に跳ね返されて(キックバック現象)、刈刃と接触する恐れがあります。必ず左側で刈り払います。
(2)往復刈りではキックバックが発生する危険性が大きいことや、一度切られて残っている切り株を再度たたき切るため、これが小片となり飛散しやすくなります。

9.異常を感じたらまずエンジンを止めましょう。
 刈刃に草が巻きついた、機械の振動が激しくなった、潅木に刃が喰いついたなどの機械の異常や身体が滑りそうになったなど、正常な作業ができなくなったときにはまずエンジンを止めて安全を確保します。
 エンジンの再始動が面倒だとして、草わらの巻きつきをエンジンを止めずにとろうとしている光景を私の勤務先でもよく見かけます。
 慣れているから大丈夫は怪我の元です。負傷してからでは遅すぎます。農業機械の中では負傷事故の最も多い機械である刈払い機を安全に使って事故を減らしましょう。

トピックス
ハチに刺されたら
 筆者は昨年作業中にオオスズメバチに刺され大変な目に逢いました。少し深い草むらなどには思わぬところにハチの巣が隠れている場合があります。
 もしハチに刺されたら応急手当をした後必ず病院で適切な手当てを受けることが大切です。
 万一刺されたら まず、注入された毒液を速やにかつできるだけ多く取り除くことが重要です。ハチの毒は水に溶けるので、刺された部分を両手の指で強くつまんで毒を絞り出しながら水で洗い流します。 アンモニアがハチの毒を中和するというのは間違いです。 薬としては、抗ヒスタミン剤を含有したステロイド軟膏を塗ります。
 応急処置が済んだら、すぐに近くの病院へ行きましょう。ショックの兆候が見られたら、救急車を呼ぶことも考えましょう。もしアナフィラキーショックが起きると、短時間のうちに危篤状態になります。
アナフィラキーショック
 これは一種の抗原抗体反応(アレルギー反応)です。最初に刺されたとき、その毒(タンパク質の一種)に対する抗体が体の中にできるため、次に刺されたときに、毒(抗原)に抗体が激しく反応して強いショック症状を起こします。治療が遅れると死亡します。たった1匹に刺されただけでも死に至ることがあるのです。

オオスズメバチ